JFN Association

全国FM放送協議会(JFN)

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CMセミナー2023「谷道忠氏によるラジオCM誕生秘話」

 様々な制限が緩和され、コロナ前の生活に戻りつつある2023年7月21日、JFN各局の皆さんに参加して頂き、恒例のCMセミナーが開催されました。大阪を拠点に活動されている谷道忠氏を講師に招き、ラジオCMの代表作を聴きながら、そのCMの制作秘話をお聞きできた貴重な時間でした。

【講師:谷道忠(たにみちただ)氏】
プロデューサー。ラジオCM、テレビCM音楽などの制作、メジャーアーティストの広告マネージメント、関西最大級音楽コンテストeo Music Tryを企画運営してきたヒッツコーポレーションに所属。
キンチョウ、Pocky、(JFN系列で大変お世話になっている安部礼司枠の)日産等のラジオCMでプロデューサーを担当。
総務大臣賞ACCグランプリ、TCC賞グランプリ、OCC賞グランプリ、広告電通賞オーディオ広告部門最高賞、HaHaHa Osaka Creativity Awardsグランプリなど受賞。

<セミナーで紹介した谷氏のラジオCM>

◆日産「原稿のないラジオCM」篇(90秒)
 クルマ好きの人が電気自動車を初体験したリアルなリアクションが欲しくて、本人には内緒で生のトークを録音。1時間ほど録って、編集は1日がかりだった。
 初めての「ドッキリ」収録だったが、同じ手法を2度、3度繰り返すことは避けている。初回でどこまで極められるかだと思う。

◆キンチョウ「G作家の小部屋」シリーズ
 ナレーター、役者、文化人など様々な人を検討した結果、Facebookで友達承認してもらっている作家・町田康氏に打診したところ快諾。テレビCMなら断わっていたと言われ、ラジオの可能性を感じた。CM制作は、大きなイメージを共有することから始まり、キャスティングで「この人!」という人を見つけるのが大変。

◆マイベストジョブ「ラジオCMに出演するバイトを、リモートでやってみた!」シリーズ
 コロナ禍が深刻で、アルバイト広告を出すこともためらわれた時期の作品。人との接触を避けなければならず、録り方を工夫した。各地の出演者とZoomで繋いでコミュニケーションし、インタビューして原稿をまとめ、チャットに貼り付けた原稿をスマホで録音してメール添付で送ってもらった。出演者は自宅だったせいかリラックスして録音できたようだった。

◆上田安子服飾専門学校「足が速ければ」篇(40秒)
 ナレーションをブースで録音して、走る足音のSEを付けることもできるが、この作品では、ピンマイクを付けてリアルに走ってもらい、ミキサーが自転車で追いかけた。迫力ある音になった上に、実際に走った時間が奇跡的にジャスト40秒となり、編集なし。キャスティングは、大阪城公園で走っている人を見つけて依頼。

◆味の素「倍速生活」篇(60秒)
 味の素からZ世代へのメッセージというコンセプトのため、実際にZ世代に響く人を、とシンガーソングライターのasmiさんにダメ元で当たった。
 制作上は、聞き取れる範囲でなければならないため、どこを倍速にするか?が難しかったが、音だけなので何回聴いても心地良いを基準にした。

◆学生援護会an「しあわせな音」居酒屋篇・バイク宅配便篇・ケーキ屋篇、「アルバイターソング」ファーストフード篇・居酒屋篇
 初めてすべてをディレクションした作品。楽しみながら作った。この頃はコピーも書いていて、アルバイトのシーンはひとつずつ考えた。いま聴くととてもストレートだなと思う。

◆オプテージ eo「家族を考える」篇
 プロのナレーターをキャスティングしていたが、スタッフの女性の声の良さが気になっていたため、現場で急遽試してみたところ、リアルな印象の良い作品が出来た。キャスト変更はよくする。特に〆コメントのナレーションは重要なので、バンバン替えて実験してみて、ダメならあっさり捨てる。
 ナレーターを選ぶ際は、実際の原稿を読んだボイスサンプルを送ってもらうようにしている。手間の掛かる作業だが、ここぞという時には試して欲しい。

◆キンチョウ「金鳥少年」シリーズ
 ラジオCMがジャンルを超えて盛り上がり、話題になっていくのを初めて体験した作品。出演者の男の子と女の子は、ローラー作戦で150人以上を電話オーディションして見つけた。若い子なので、一緒にブースに入って口移しで演出し、セリフをバラバラに録ってパッチワークした。喋り手の集中力は長くは続かないため、緻密に演出したい場合、一行ずつ、一言ずつ、何度も録って、一番良いテイクに決める方が、クオリティが上がると思う。

◆質疑応答
出席者の質問に応えて、谷氏なりのこだわりを話して下さいました。

  • 自然な雰囲気を演出するために、ブースに限らず、ソファやミーティングルームで録ることもある。ノイズの事よりも大きなプラスを取る。
  • イメージ通りの声を録りたい時は、基本的に全事務所に声掛けし、素人も含めて、当たれるところはすべて当たる。子どもの場合は保護者も一緒にブースに入ってもらうこともある。
  • スタッフ出演もふくめて、ハマれば誰でも声優になれる。総じてラジオは自由なメディアだ。
  • 新たな視点を見つけるには、新しいモノを見て、吸収するしかない。ゴールを決めて邁進。しんどいが、同じことを2度、3度とやらない。
  • 面白がってやる方が、結果的に良い方向に行くと信じている。
  • 感覚や耳を養うためには、優れた作品を浴びるように聴くこと。ACCは優秀な作品がアーカイヴされているので参考に。真似るのはアリだと思う。そこから始めてオリジナルになっていくと思う。

◆最後に
 テレビCMにできなくてラジオCMにできる事は「思いついたらドンドン変えられること」。ラジオは自由なメディアだと仰っていた谷道忠氏。大阪からお越し頂き、貴重なお話をありがとうございました。

CMセミナー2023「谷道忠氏によるラジオCM誕生秘話」